Let's Get It On
金曜の午後9時、仕事がはけた後、ネオンの谷間を抜けて、
仲間達が待っている場所に足早に向かう。パーティが待っている。
恋人と二人だけで過ごすスウィートな夜が待っている。
ここに集めたのは、金曜日の夜のサウンドトラックだ。
これから始まる最高の夜のためのイントロダクション・チューンの数々。
着替えたり、メイクを直す間も、君の胸を高まらせる最高のナンバー。
待ちあわせの場所に急ぐ道すがら、ヘッドホンの中で爆音で鳴らそう。
はやる気持ちを、さらにドライヴさせてやろう。夜は俺達のもの。
マーヴィン、歌ってくれ。レッツ・ゲット・イット・オン!!
Outkast
アウトキャストを現代のビートルズになぞらえることは、もはや特別でも何でもなくなってきた。特に、誰もが「21世紀のホワイト・アルバム」と呼ぶことの誘惑に逆らえない、本作を聴いてしまった後では、なおさらだ。「僕らにはアウトキャストがいる。彼らはアンダーグラウンドの僧頼性はちゃんと保ちつつ、ボーダーを越えていくポピュラリティを持っているんだ。つまり、ビートルズ、プリンス、アウトキャストってことさ!」とは、現在もっともエクストリームなダンス・バンド、!!!のニック・ホッファーの弁。ただ本作は、当初、アンドレとビッグ・ボーイそれぞれのソロ・アルバムをCD2枚組に無理やりバッケージするという、アウトキャストというユニットが深刻な転機を迎えているという事実をあからさまに最露する作品でもあった。だが、結果的に、このディスクは、両者それぞれの才能を見事に証明することになった。「破天荒な音楽的冒険ではアンドレの盤の方が上だが、ヒップホップ・アルバムとしてはビッグ・ボーイの盤に軍配が上がるだろう」といった巷の風評も、ひとまずは落ち着いた今だからこそ、改めてこの作品をフラットに楽しむことが出来るに違いない。そもそも、そんな風に比較出来る2枚のディスクがひとつに収められていることが奇跡的なのだ。従来のアウトキャストに期待された路線を、それを上回る内容で示してみせたビッグ・ボーイの『スピーカーボックス』は、ダーティ・サウスとファンクとテクノとサイケデリアが混じりあった万華鏡のようなヒップホップがさらなる飛躍を遂げた1枚。ヒップホップという枠組みを軽く飛び越え、まるでモダン・ポップの博覧会のような様相を呈しているアンドレの『ザ・ラヴ・ビロウ』に、当初は映画のサウンドトラックとして企画されたという経緯、あるいは、サウンドの中に見え隠れするヨーロッパ志向から、86年のプリンスの傑作『パレード』を重ね合わせる者もいるかもしれない。いずれにせよ、猛烈な勢いで自らの出自を裏切っていきながら、アイデンティティはひたすら確固たるものになっていくーそれは、まさに理想的なポップ・ミュージックの姿だと言っていい。いずれにせよ、本作が2003年のポップ・ミュージックを代表する大傑作なのは、絶対的な事実。2時間以上の長尺ながら、一瞬たりとも弛緩することのない、めくるめくイノヴェイションとポップの邂逅をじっくりと楽しもう。
BEST TRACKS
- M2. Ghetto Musick
- M4. Bowtie
- M5. The Way You Move
- M6. The Rooster
- M9. Church
- M14. Flip Flop Rock
- M18. Last Call
- M21. Love Hater
- M23. Happy Valentine's Day
- M24. Spread
- M27. She Lives in My Lap
- M28. Hey Ya!
- M33. Love in War
- M37. Take Off Your Cool (Featuring Norah Jones)
オーガスタ・ノイズの力を借り、弱冠18歳で作った94年の1stアルバム『Southernplayalisticadillacmuzik(サザンプレイヤリスティキャディラックミュージック)』以来、彼らは常に着実な進化を遂げてきた。70年代ソウルへの憧慣を南部風のオーガニックな感触で仕上げたデビュー・シングル“プレイヤーズ・ボール”は、その後のトレンドの先駆け。アトランタとエイリアンを組み合わせたタイトルを持つ、
96年の2nd 「ATLiens(アトリエンズ)」の後、98年にリリースされた3rdアルバム『Aquemini (アクエミ二)』は、最初の傑作。1曲選ぶなら、まさに南部そのものの”ローザ・バークズ。軽快なアコギのストローク、スクラッチ、ブルーズ・ハーブをフィーチャーしたブレイク、もう最高。70年代UKレゲエ風の“スポッティオッティドバリシャズ”もバッチリ。大半のトラックを二人とMr.DJによる「アーストーン」名義のプロデュースで固めた4thアルバム『Stankonia (スタンコニア)』も間違いなく傑作。bpm155の高速アトランタ・ベース“B.0.B.”を筆頭に、現在のアウトキャストへと繋がるエクストリームな作風に一気に拍車がかかる。現代版ファンカデリックよろしく、レイヴ、ロック、ボサノヴァ、レゲエと、やりたい放題。“ミズ・ジャクソン”は、恋人の母親であるシングル・マザーとの衝突という、革新的なモチーフを持った名曲。この曲をヴァインズがカヴァーしたのも、おそらくこの秀逸な歌詞のせい。手っ取り早くアウトキャストの歩みを楽しむには、2001年のベスト・アルバムも便利。本作への橋渡し的な新曲も3曲収められているので、損はしない。
-
147
-
148
-
149
The Strokes
たった1枚のアルバムが、すべてをひっくり返してしまう瞬間がある。しかも、どこからともなく現れたニューカマーの作ったデビュー・アルバムがそうした革命を成し遂げてしまう瞬間というのが、ポップ・ミュージック史には確実に存在する。セックス・ビストルズの『勝手にしやがれ』、オアシスの『ディフィニトリー・メイビー』、そして、勿論、ストロークスの『イズ・ディス・イット』がそうだ。99年当時、アッシュという唯一の例外を除けば、安っぽいダンス・ミュージック、英国ボップ歌謡、ボップ・アイドルばかりが関歩していた英国のチャートに、NYからやって来た5人組が作った1枚のアルバムが突如ギター・バンドの興奮を甦らせた。NYパンクを思わせる、そのスッカスカのサウンドは、とにかく衝撃的。アウトキャストのアンドレがストロークスに夢中になるのも無理はない。レトロなようで、フューチャリスティック-アウトキャストが南部ソウルのルーツを現代風にアップデートさせようとしていることを、ストロークスはまったく別のフィールドでやろうとしているのだから。この2ndアルバムも、曲の出来からすると1stには譲るものの、サウンドはさらにユニーク。自らが巻き起こした「ガレージ・リヴァイヴァル」に反旗を翻すかのような、スカスカ&プラスティックな質感を持った、ストロークス流フューチャリスティック・サウンドだ。奇妙なトリップ感を生み出す、不思議な音のバランス。しかし、本作の後、改めて1stを聴き直すと、“イズ・ディス・イット”のスカスカのサウンドが、モダンR&Bのように聞こえてくるから、あら、不思議。恐るべし、ストロークス。
BEST TRACKS
- M1. What Ever Happened?
- M2. Reptilia
- M3. Automatic Stop
- M4. 12:51
- M5. You Talk Way Too Much
- M10. The End Has No End
- M11. I Can't Win
左右のチャンネルに振り分けられた“ユー・トーク・ウェイ・トゥー・マッチ”のギターや、ヴォーカル・メロディとユニゾンで弾き続ける“12:51”のギター。どれもかなり変だ。しかも、サスティーンを効かしたギターの音色は、まるでムーグ・シンセサイザー。ムーグは、60年代、アメリカのロバート・ムーグ博士が発明した楽器。レトロ・フューチャーなムードを作りだすにはびったりの楽器だ。でも、それをわざわざギターでやろうとするのが意味不明。また、ボブ・マーリーをこよなく愛するジュリアン・カサブランカスの趣味からか、本作にはレゲエ風のナンバーが目立つ。だが、レゲエなら、低音をがっちりと固めるはずのベースが、かなり高い音を出したりするせいで、コード感が引っ繰り返ったりと、あまりにも実験的な作りにびっくり。
Junior Senior
バカんなってゴー!とにかく大騒ぎしたい、心も体も素っ裸になって踊りたいのなら、迷わずこのアルバムを選ぶべき。デンマーク出身の、ジュニアことジャスパー・モーセンテンと、シニアことヤッペ・ローセンの凸凹コンビによる、この1stアルバムを手に取るだけで、古今東西の名盤50枚を立て続けに聴くのと同じだけの興奮が必ずや味わえる。なにせ、ロックンロール、ガレージ・パンク、ディスコ、70年代ソウル、ヒップホップ──それぞれの黄金時代のエッセンスのみを取り出して、21世紀版パーティ・チューンに仕立ててしまっているのだから。ビーチ・ボーイズ、ザ・バーズ、スティーヴィー・ワンダー、そして、ストゥージズが一緒に健康ランドで宴会騒ぎを繰り広げているような、アクロバティックなコラージュ・センスは、二人もその影響を公言する、ビースティーズの2nd『ポールズ・ブティック』から受け継がれたものだろう。だが、こちらは、サンプリング一切なし、すべてバンド・スタイルによる生演奏。まるで全盛期のマイケル・ジャクソンが憑依したかのようなヒット・シングル“ムーヴ・ユア・フィート”を筆頭に、どの曲も秒殺モノのキャッチーさが炸裂。でもって、大の男が二人並んでカラオケ状態で歌いまくる、そのハイテンションぶり。しかも、大して上手くもないところが、またトホホで愛らしい。歌詞の中身は、総じてパーティと、女の子と、下ネタ。ちなみに、シニアはゲイなので、時々「可愛い男の子」まで登場する。この痛快なパカバカしさもたまらない。間違いなく、老いも若きもすべてのポップ・ミュージック・ラヴァーズを満足させることの出来る逸品。
BEST TRACKS
- M2. Rhythm Bandits
- M3. Move Your Feet
- M4. Chicks and Dicks
- M9. Shake Me Baby
- M10. Dynamite
実は実は、作詞/作曲は、すべてジュニアが手掛けており、シニアは歌うのみ。ただ、ライヴなどでは、むしろムードメイカーとして、シニアの魅力が爆発です。ちなみに、本作の中で断トツに素晴らしい、“ムーヴ・ユア・フィート”での子供時代のマイケル・Jのようなソウルフルなコーラスは、ジュニアでもシニアでもなく、ただの友人。何だそりゃ? また、本作を買う際には注意が必要。デンマーク盤、UK盤、US盤、日本盤では微妙に内容が異なるのです! ジャケットも違えば、同じ曲でもタイトルが違ったり、同じタイトルでもまったくのテイク違いが収録されていたり。“リズム・バンディッツ”なんて、シングルも含め4つもヴァージョン違いが存在します。加えて、シングル盤ではDFAやマントロニクスのリミクスも収録。集めるのが一苦労です。
The Darkness
ここ日本の2003年音楽シーンにおいて、もっとも誤解されたバンド──それは、もしかしたら、このザ・ダークネスかもしれない。張り裂けんばかりのハイトーン・ファルセットに、テクニカルなソロを完璧に弾きこなすギターは、クイーンやエアロスミスといった、70年代のハード・ロックを思い出さずにはいられない。一見するとそれは、ただの時代遅れで、ナルシスティックなだけの音楽に聴こえるだろう。だが、バカバカしいんだけど愛さずにはいられないバンド──それが、ザ・ダークネスだ。実際、彼らは、デビューとともに本国イギリスを筆頭に、世界中で絶賛され、2003年の音楽シーンに一大旋風を巻き起こした。それは、ゴージャス&グラマラスなビッグ・ロックを、誰もが楽しめるエンターテインメント・ロックへと移し替えてみせたからだ。タブー・ワードでコール&レスポンス、奇抜なジャンプ・スーツを着たジャスティン・ホーキンスがステージを所狭しと駆け回るライヴは、まさにロックンロール・サーカスそのもの。卓越したソングライティングから生み出されるメロディは、どれもとても覚えやすく、気付かないうちに口ずさんでいるなんてこともしばしば。ほぼ全て、恋と、ドラッグと、金曜の夜のことをモチーフにした歌詞も、誰もが一度は身に覚えのあるはずのものばかりで、とても親しみやすい。そう、ワーキング・クラス代表ロックンロール・バンド=かつてのオアシスのような存在。老若男女誰からも愛される、ビープルのためのバンド──それが、このザ・ダークネスだ。難しいことは何も要らない。ただ、腹を抱えて笑い転げながら踊るための一枚。
BEST TRACKS
- M1. Black Shuck
- M4. I Believe In A Thing Called Love
- M6. Givin' Up
- M7. Stuck In A Rut
アッシュのティム・ウィーラーの証言によると、ダークネスのギタリスト、ダン・ホーキンスは自前のシン・リジィTシャツを80枚も作っていて、毎晩必ずステージで着ているらしい。「僕も1枚もらったんだ。あれは嬉しかったな」とは、ティム・ウィーラーの弁。
ほとんど上半身ハダカに近い、奇抜なジャンプスーツがトレードマークのヴォーカル、ジャスティン・ホーキンス。彼がそれを初めて着たステージは、観客が10人程度しかいない、寂しいものだったという。現在のメンバーに固まったのが、2000年のことだから、およそ5年もの間下積み生活を続けていたことになる。彼らの鍛え抜かれたショーマンシップからは、そんな苦労時代が透けて見えるようで、ちょっと切ない。
THE JERRY LEE PHANTOM
海の向こう、生活も言葉も違う街に生まれ育ちながら、偶然にもその瞬間に同じことを考え、通じ合ってしまう不思議。ポップ・ミュージックにおいて、世界を巻き込むムーヴメントの興奮とは、そんな共鳴を実感することに他ならない。それぞれのバンド、オーディエンスは、音という空気の振動と、そこに宿るフィーリングを通して、まるでテレパシーにも似たコミュニケーションで通じ合うのだ。それこそが、ポップの魔法──そう考えるのは、あまりにロマンティック過ぎるだろうか。しかし、ジェリー・リー・ファントム(以下、JLP)のこの6thアルバムは、2003年の日本において、そんな奇跡的な瞬間を見事に切り取った作品だ。JLPのサウンドは、70年代後半から80年代にかけてのポストバンク/ニューウェイヴから影響を受けたバンド達──NYを拠点に活動するレディオ4やラプチャー、あるいはカナダ出身のホット・ホット・ヒートと明らかにシンクロしている。そして、彼らを繋いでいるのが、ザ・クラッシュ。この海を越えた不思議なシンクロニシティは、ポストパンク・リヴァイヴァルはハイプでも何でもなかった、本物のパンク・バンド達はダンスを希求するということの最高の証明だろう。
そもそも、JLPは70年代ブリティッシュ・バンクと、ラフィン・ノーズに代表されるジャパニーズ・パンクをルーツに出発したバンドだ。活動歴は8年間に及ぶ。中でも、この3年の間に発表された3作品は、まるでクラッシュ全史を一気に駆け抜けるような、彼らの急な成長と変化を見事に刻み込んでいる。それまで以上に意識的に「踊れるパンク」というコンセプトに磨きをかけた、01年の4thアルバム『54321』。
4分打ちのハウス・ビート、トランシーな音色を持ったエレクトロニクスへと接近した、02年の5thアルバム『ライフ・リズム・ボックス』。この二枚は、ロックンロールにダンス・ビートを取り戻すことをテーマにした意欲作。そして、この6枚目のアルバムは、パンキッシュなサウンドの、歌ものダンス・ミュージックというオリジナルなスタイルを確立させた、最初のマスターピースだ。無駄のないサウンド、歌詞、時々つんのめりながらもダンス・ビートを刻み続けるリズムは、「踊ることで、君はすべてを理解するだろう」ということだけを伝えている。世界中で21世紀の新たなパンク・ミュージックが産声を上げた、その瞬間を見事にとらえた一枚だ。
BEST TRACKS
- M1. The Clash
- M2. Music Lovers
- M5. D.D.D. School
- M8. Everyday Everynight I Need You
初めて聴く方は、本作は勿論、ここ3年間で発表された3枚のアルバムであれば、どれを入門編にしても大丈夫。『54321』には最初のパンク・ダンス・ナンバー“ディス・ボーリング・ロッグ”と、彼らのポップ・サイドにおける代表曲”フリーダム”を収録。亜細亜テイストのハイパー・ポップ“エイジアン・ハイ”や、4分打ちのバンド・アンセム“ヒカリ”が聴ける『ライフ・リズム・ボックス』は、何度聴き返しても々しい、傑作。
本作の最後に収録されている、“エヴリデイ・エヴリナイト・アイ・ニード・ユー”は、世界中のインディ・クラブのスタンダード、トレイシー・ウルマン“ブレイクアウェイ”へのオマージュ。しっかり肩を並べるキュートな仕上がりです。
パンク・スピリットとダンス・ビートの融合──そのもう一人の代表格と言えばやはりファットボーイ・スリムことノーマン・クックでしょうか?ファットボーイ名義での1stアルバム『ベター・リヴィング・スルー・ケミストリー』は、パンク・トゥ・ファングというそのままのトラックを収録。生粋のパンク・キッズだったノーマンが、アシッド・ハウスとエクスタシーを通過することで、開争から逃走へとさっさと転向したことを、最初に世界に表明した一曲だ。別のジャンルに目を向ければ、アレック・エンパイアも。ドイツのアンダーグラウンド・ハードコア・パンク・シーンから出発し、ロンドンを経由してドリルンベース/ガバを発見。そして、またデジタル・ハードコアという新たなパンク・ミュージックを創造した男だ。最近、活動が沈静化しているのがちょっと心配だが、彼の作品も願いておいて損はない。考えてみれば、80年代以降、ヒップホップ、テクノ、イギリスのマッドチェスター、アメリカのスカ・パンクと、アンダーグラウンド音楽は、すべからくパンク・スピリットによって生まれ、踊るためのビートを獲得している。むしろ、ロックと呼ばれる音楽だけが、その例外なのかも?
-
171
-
172