Snoozer presents The Essential Disc Guide 2004

あなたのライフを変えるかもしれない300枚のレコード

ヘッドホンのイラスト

はじめに

90年代前半に、日本全国各地に外資系CD量販店が出店を開始した頃、この国の音楽文化はひとつの大きなターニング・ポイントを迎えました。それまで中々手に入れることの出来なかったレア盤が一斉にCD化され、すべてが店頭にずらりと並ぶ。それはさながら、全国各地にポップ・ミュージックのMOMAが出来上がったようなものでした。この時期、他国には例を見ない、日本独自の「洋楽文化」が華咲いたと言えるでしょう。もしかすると、それは80年代バブルを背景にした徒花的瞬間でしかなかったのかもしれません。ただ、あらゆる世界中の音楽がすぐに手に入るという状況は、我々が世界に誇れるものだったと言えます。

バナナの下にAndy Warholと書かれたTシャツのイラスト

それから10年経った現在、我々が置かれている現状は、当時に比べると、決して楽しいものではありません。大型CD量販店の店頭には、素晴らしい歴史的な名盤よりも、数カ月後にはゴミになってしまうことが一目瞭然の新譜が山と積まれるようになりました。大方のバックカタログはバーゲン・セールの対家になることで、その価値がおとしめられてしまっています。そして、ここ数年、アメリカでは既に一般的になったネットによる配信サービスの実施による、抜本的な変化が忍び寄る足音が大きくなるにつれ、パッケージ・ビジネスは岐路に立たされています。このディスク・ガイドは、そんな風な状況に対して、少しだけ楯突こうとするものだと言えるかもしれません。それと同時に、決して遠くない時代に、さまざまなバックカタログが膨大なアーカイヴとして、ネット上にずらりとアップされることを念頭に置いたものでもあります。ただ、そんな状況が訪れた時、果たして、我々は、そうしたポップ・ミュージックの豊穣な歴史を本当に必要としているでしょうか?

実際、ここに収められた、時代もジャンルも越えた300枚のディスクをすべて必要とするような人間が果たしているのか?という疑問は残りますーまあ、困ったことに、例えば、僕がそんな人間のひとりなわけですが。実際のところ、ヒップホップ、ハウス、ロック、ギター・ポップという風に、それぞれのジャンルの音楽を聴くリスナーは、それぞれのヘッズ、それぞれのトライブに分かれているのが現状です。ただ、少し考えれば、それは当たり前のことでもあります。大方の音楽は、望む望まないに関わらず、ある特定のメンタリティや暮らしや思想をリブリゼントしてしまうもの。それに、そもそも音楽というのは、ある特定のコミュニティを背景にして生まれてくるものでもあります。しかも、我々が暮らす世界には、様々な対立や隔離が存在します。だからこそ、ポップ・ミュージックが様々なジャンルに分かれ、それを聴くリスナーのクラスターが別々になってしまうのも当然と言えば、当然なのです。

そう考えると、他国に比べて、明らかに様々な文化の音楽を比較的分け隔てなく聴くという現在の日本の状況こそが、少しばかりおかしいのかもしれません。実際、日本人ほどジャマイカ音楽やアンダーグラウンドのヒップホップについて、これほど深い理解と愛情をもって接しているトライブもいないでしよう。ただ、やはりそうした状況は、戦後日本の経済的な豊かさという恩恵と戦後民主主義という風土あってのこと。だからこそ、世界中の様々な音楽を分け隔てなく聴くという態度は、我々に与えられた特権であり、もしかすると、使命ではないかとまで思ったりもするのです。

CDや開かれたCDケース、ジャケットが散らばっているイラスト

ただ、我々は、このディスク・ガイドを、ありきたりな「名盤ガイド」にするつもりはありませんでした。実際、この本の中には、エルヴィス・プレスリーやバディ・ホリーはいても、リトル・リチャードもいなければ、チャック・ベリーもいません。ビートルズやローリング・ストーンズはいても、ザ・フーやジミ・ヘンドリックスさえいないのです。にもかかわらず、ニール・ヤングのアルバムには7枚ものスペースが割かれています。かなり不思議なセレクションだと言えるでしょう。勿論、この一見、不思議にも思えるセレクションについて、我々は極めて意識的でした。そもそも価値や評価というのは、絶対的なものではありません。ある音楽作品の価値や評価は、それぞれの時代や文化によって、大きく左右される相対的なものです。そして、そうした価値の相対化を認めることは、実はとても大切なことです。なぜなら、それは、自分が暮らす文化や時代に存在する価値観とはまったく異なる、別のさまざまな価値観が存在することを知ることに繋がるからです。優れたポップ・ミュージックは、世代やジャンルを越えるものであると同時に、そこに横たわる壁の存在を浮かび上がらせるものでもあります。

だからこそ、このディスク・ガイドは、「どんな時代にも、どんな人にとっても傑作であり続けるアルバム」を集めたものではありません(でも果たして、そんなものが存在するのでしょうか?そんなものがあったとしても、それはとても気味が悪くはないでしょうか?)。この本は、「今、この2004年に日本に暮らす我々にとって、とても意味のあるディスク」という限定を課したものなのです。それゆえ、この本に収められている30枚のディスクは、昨年リリースされたさまざまな作品の内、我々がベストだと感じた50枚のディスクを元に、そこから検索出来るような仕組みになっています。つまり、このディスク・ガイド全体が、「ザ・ラプチャーの『エコーズ』というアルバムに何がしか心を動かされたアナタなら、このアルバムも聴いてみてはどうですか?」という構成になっているのです。つまり、それは、「今、この2004年だからこそ聴いておきたいディスク」を集めたということです。なので、この本にはマッドハニーは載っていても、ニルヴァーナは載っていません。AC/DCは載っていても、レッド・ツェッペリンは載っていないのです。ここでニヤリと笑ってくれたアナタは、我々が意図したことをかなり正確に汲み取ってくれているに違いありません。

ところで、ここまでお読みになったアナタはもうお気づきになっているかもしれませんが、このディスク・ガイドは、もし可能なら、毎年刊行されるものなのです。かなり大きな風呂敷を拡げてしまった気もしますが、相手はポップ・ミュージックなのです。小さな志では、到底太刀打ち出来るものではないでしょう。

優れたポップ・ミュージックが、世代やジャンルを越えたものであるように、この本がそんな風に様々な人にとって、何がしかの価値のあるものであって欲しいと願っています。では、楽しんで下さい。

iPodのイラスト

50 Best Albums of 2003

まずは、我々が2003年の年末に選んだ、「年間ベスト・アルバム50」を見て下さい。

もしアナタのお気に入りのアルバムがここにあれば、その作品が載っているページを巻末の索引から調べて、そこから読み進めてもらうのも、面白いかもしれません。

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